位相進み補償器
卒業研究で制御系を実装する上で、位相進み補償器についてお勉強したのでそのことについて書いていこうと思います。
横軸が[rad/s]の場合と[Hz]の場合で式が異なるのでこれから勉強をする人は注意してください・・・(僕はそこでハマってうまく設計できないときがありました(;´・ω・))
この記事は教科書等で紹介されている横軸が[rad/s]の場合について記述しています。
横軸が[Hz]の場合は後日書きます。
まずは、位相進み補償器の説明をする前に、安定余裕について書いていこうと思います。
○安定余裕とは・・・
閉ループシステムが不安定になるまでどれくらい余裕があるかのことです。
ある目標の値まで早く収束させたいときにゲインを上げますよね
しかし、コントローラのゲインを大きくしし過ぎるとフィードバックをさせたときに目標値へ動かすときに出力が発散して、システムが不安定になります。
このようなとき、安定余裕を調べてシステムを評価します。
安定余裕を表す指標としてゲイン余裕と位相余裕があります。
○ゲイン余裕とは・・・
あるシステムの一巡伝達関数L(s)の位相が、∠L(jω)=-180[deg]のとき、ゲインが|L(jω)|=1となるのにどれだけの余裕があるかデシベル表示で表したものです。この値が大きくなるとシステムは安定になります。
\[定義:ゲイン余裕G_m=20log10|\frac{1}{L(jω)}|=-20log10|L(jω)| [dB]\]
ここで、L(jω)は、L(s)の位相が\[L(jω)=-180 [deg]\]となる周波数(位相交差周波数)です。
図で表すとこのようなときです。
Gm>0 [dB]:安定
Gm=0 [dB]:安定限界
Gm<0 [dB]:不安定
○位相余裕とは・・・
L(s)のゲインが|L(jω)|=1のとき、位相が∠L(jω)=-180[deg]となるのにどれだけの余裕があるのかを表したものです。この値も大きくなるほど安定になります。
\[定義:位相余裕Pm=180+∠L(jω) [deg]\]
ここで 、L(jω)は、L(s)のゲインが1(0㏈のこと)となる周波数(ゲイン交差周波数)です。
図で表すとこのようなときです。
Pm>0 [deg]:安定
Pm=0 [deg]:安定限界
Pm<0 [deg]:不安定
ここまでで安定余裕の話が分かったところで、次に位相進み補償器の説明に入ります。
○位相進み補償器とは・・・
その名前の通り、ボード線図における位相を進めて(上に上げて)システムの特性を改善させようとする制御器です。フィードバックループの中にこの位相進み補償器を直列的に組み込むことによって、過渡特性(目標に近づく過程)を改善したり、系を安定化させるために使用します。PID制御よりも設計に自由があるためよく使用されます。
伝達関数は以下のようになります。
\[C(s)=\frac{K(T_s+1)}{α(T_s+1)} \]
このときの係数αは
\[α =\frac{(1-sinΦ)}{(1+sinΦ)}< 1\]
です。
ここでΦは最大回復位相を表します。
位相進み補償器そのもののボード線図は以下のようになります。
この図からわかるようにゲイン交差周波数ωの周辺の位相が進んで(上にあがって)います。また、同じ周波数の周辺でゲインも増加しています。
このことより周波数ω付近で、位相が進んで(上がっている)ので追従性が良くなるが、ゲインが大きくなる(右肩あがりになる)のでノイズが増幅してしまうことがわかります。
設計の手順は以下の通りです。
1.ゲイン補償を決定する
2.位相余裕を評価する。
3.係数αを決定する。
4.新しいゲイン交差周波数ωmaxを決める。
5.係数Tを決定する。
6.位相進み補償器を設計する。
では、実際に設計してみます。
今回はこのシステムP(s)に位相進み補償を設計してみることにします。
\[P(s)=\frac{10}{s(s+1)(s+10)}\]
ただし、ゲイン交差周波数ωc≧2、位相余裕PM=40°とします。
1.ゲイン補償を決定する
まず、システムP(s)にどんなゲインKをかけると安定になるか、または制御対象について適切なゲインKを掛けて設計仕様をクリアできるようにします。
ゲイン余裕の定義式より以下のようになります。
\[Gm=0\]
\[⇔20log{10}|frac{1}{K*P(ω)}|=0\]
\[⇔-20log{10}|KP(ω)|=0\]
\[⇔-20log{10}K-20log{10}|P(ω)|=0\]
\[⇔log{10}K=-log{10}|P(ω)|\]
\[⇔K=10 ^{ -log{10}|P(ω)|}\]
このようにゲイン補償が決定できます。
ちなみに、最後のKを出す変形は
\[log2(8)=3 ⇔ 2^3=8\]
の関係を使用しています。
今回の場合だと、設計仕様がωc≧2ですのでまずはゲイン線図の2rad/sの部分を見ます。
2rad/s付近を拡大すると-13.2dBであり、ゲインが0dBより下にあることが分かります。
ここを設計仕様に合うようにゲインKを求めます。ωc≧2の設計仕様より代入する値は14dBとします。
先ほどの式に代入して
\[20log{10}K-14=0\]
\[K=10^{14/20}\]
\[K=10.7152\]
となります。
2.位相余裕を評価する
次に必要な位相進み量を調べます。
1.で調べたKと、制御対象のシステムP(s)の一巡伝達関数であるL(s)=KP(s)のボード線図を書きます。
このボード線図のゲイン交差周波数を見て位相余裕Pmがどれだけあるか調べます。
欲しい(与えられた)位相余裕PMとの差であるΦ=PM-Pm[deg]が、必要な位相進み量になります。これを最大回復位相と呼びます。一般的に少し余裕をみてΦ’=Φ+5[deg]となるように設定します。
今回の場合だと、設計仕様が位相余裕PM≃40°なので、まずは位相線図の2rad/sの部分を見ます。
2rad/s付近を拡大すると-165°であり、位相が180°より14°上にあることが分かります。
\[位相進み量Φ=40-14=26[deg]\]
よって必要な位相進み量は余裕分も考慮してΦ=36°とします。
3.位相進み補償の係数αを求める
2.でΦが設定できたので先ほどのaの関係式より係数を求めます。
\[α =\frac{1-sin36}{1+sin36}\]
\[α=0.2596\]
このときαは1未満ですのでΦは適切に設定できました。
4.新しいゲイン交差周波数ωmaxを求める
以下の図に示したようΦのとき、位相が最も進みます。この時の周波数においてゲインは倍になります。
ここでL(s)の一巡伝達関数をみてみます。以下の図より倍されたゲインは[dB]となっており0dBより下にいると思います。
このときの周波数3rad/sを新しいゲイン交差周波数ωmaxとし、以後の式において3rad\sをゲイン交差周波数として計算していきます。
5.パラメータTを決定する
パラメータTは
\[ωmax=\frac{1}{\sqrt{α}T}\]
の関係にあるのでTについて解くと
\[T=\frac{1}{\sqrt{α}ωmax}\]
となり、T= 0.6542 が求まります。
6.位相進み補償器を設計する
以上求めたK、α、Tを(1)式に代入して位相進み補償器を作ります!
\[C(s)=\frac{K(Ts+1)}{α(Ts+1)} \]
\[=\frac{10.7152(0.6542s+1)}{0.2596(0.6542s+1)}\]
となります。
このときのボード線図を以下に示します。
また、制御対象に位相進み補償器を組み込んだ後のボード線図をオレンジの線で示しまいた(比較で制御組む前の対象を青い線で示しています)。
ここからわかるように設計仕様に合ったように位相進み補償器が設計できました!